「デジタル化を始めたいが、何から手をつけるべきか分からない」。
都内の中小企業経営者からよく聞く相談です。社内に詳しい担当者がいない、ツールを比較する時間もない、補助金は申請が複雑そう、という三重苦が背景にあります。
そこに東京都が2026年5月18日、新しい受け皿を打ち出しました。中小企業デジタル化ファーストステップ支援事業の一般コース受付開始です。金銭の補助ではなく、専門家による伴走支援とパソコン無料貸出という現物支援の形をとっています。
この記事では、執筆時点(2026年5月20日)の公式情報をもとに、事業の中身・対象条件・申込方法・既存のDX補助金との違い・経営者として活用すべき判断軸を整理します。

事業概要|東京都が新たに始めた伴走型支援とは
「中小企業デジタル化ファーストステップ支援事業」は、東京都が令和8年度に実施する中小企業向けのデジタル化支援事業です。運営は委託先のアデコ株式会社が担い、2026年5月18日から一般コースの受付が始まりました。
事業の特徴は、補助金のように金銭を給付するのではなく、専門家が現地・オンラインで伴走しながら、業務の棚卸からツール導入までを一緒に進める形を取っている点です。デジタル化の入り口でつまずきがちな中小企業にとって、ハードルを大きく下げる設計といえます。
事業期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日までで、申込方法はWEBフォームのみ。電話や書面での受付はありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名 | 中小企業デジタル化ファーストステップ支援事業 |
| 実施主体 | 東京都(運営: アデコ株式会社) |
| 事業期間 | 令和8年4月1日~令和9年3月31日 |
| 一般コース受付開始 | 令和8年5月18日(月) |
| 機器トライアル導入コース | 受付時期は今後案内(執筆時点では未受付) |
| 自己負担 | 無料(提案ツールを実際に導入する際の契約料は利用者負担) |
| 申込方法 | 公式WEBフォームのみ |
対象事業者と申込条件|都内中小企業ならまず確認
対象は、東京都内に事業所を持つ中小企業・小規模事業者です。個人事業主も含まれます。一方で、いわゆる「みなし大企業」(大企業の出資比率が高い等の要件に該当する事業者)は対象外となっています。
条件を整理すると次のとおりです。
・所在地条件: 東京都内に事業所があること(本社が都外でも、都内事業所単位での申込は可能)
・規模条件: 中小企業基本法上の中小企業・小規模事業者であること
・除外条件: みなし大企業に該当する場合は対象外
・申込ルール: 一般コースと機器トライアル導入コースの同時申込は不可
・受付方法: WEBフォームのみ。電話・書面・FAXでの申込は受け付けない
「自社が中小企業に該当するか分からない」という相談は実務でもよく出てきますが、判断は資本金・従業員数の業種別基準で決まります。製造業なら資本金3億円以下または従業員300人以下、サービス業なら資本金5,000万円以下または従業員100人以下、といった具合です。判断に迷ったら、申込前に事務局に確認するのが安全です。
伴走型支援の中身|一般コースと機器トライアル導入コース
本事業は2つのコースで構成されています。経営者の関心事である「実際に何をしてくれるのか」を、それぞれ整理します。
1. 一般コース(5月18日から受付中)
専門家による伴走支援を最大5回受けられるコースです。主な流れは次のとおりです。
・初回診断: 経営課題と業務の現状をヒアリングし、デジタル化の優先順位を整理
・業務棚卸: 紙・属人化・二重入力など、デジタル化で効果が出やすい業務を抽出
・ツール提案: 自社規模・業種に合うデジタルツール(クラウド勤怠、電子契約、会計ソフト等)を提案
・選定支援: 複数候補の比較・トライアル方法の助言
・導入フォロー: 実際の運用立ち上げまでの相談対応
「ツール導入後に社内で使われない」という典型的な失敗を避けるために、業務側から逆算して提案してもらえる点が大きな価値です。
2. 機器トライアル導入コース(今後案内予定)
こちらは「そもそもパソコンが現場に行き渡っていない」「使い慣れていないので試してみたい」という事業者向けです。
・パソコン無料貸出: 最大5か月間、業務効率化ツールを搭載したPCを貸し出し
・伴走支援: 試用期間中に最大10回の専門家サポート
・受付時期: 執筆時点では未開始。今後、公式サイトで案内予定
製造業の現場や、紙伝票中心の小売・サービス業など、「現物のPCで試してから判断したい」事業者にフィットする設計です。
申込フローと、経営者としての活用判断
一般コースの申込は、すべてオンラインで完結します。執筆時点で公式に案内されている流れは次のとおりです。
・ステップ1: 公式サイト(tokyo-digitalfirststep.metro.tokyo.lg.jp)にアクセス
・ステップ2: 事業内容を確認のうえ、WEB申込フォームに必要事項を入力
・ステップ3: 事務局から連絡が入り、専門家との初回ヒアリング日程を調整
・ステップ4: 訪問またはオンラインで伴走支援を順次実施(最大5回)
申込期限は公式に明示されていません。事業期間が令和9年3月31日までなので、年度後半に駆け込み申込が集中して受付が締まる可能性は十分あります。デジタル化の検討余地が少しでもあるなら、早めの問い合わせが安全です。
問い合わせ窓口は、電話03-4405-2306、メールade.jp.digi1st@jp.adecco.com、受付時間は平日10:00~17:00となっています。
制度の最新情報や類書を手元に置いて経営判断したい方には、現場感のある一冊が役に立ちます。
デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門(長尾一洋/KADOKAWA)※PR は、社内にIT担当が不在の中小企業向けに、伴走型支援を活用する際の前提知識を整理するのに向いています。
活用判断の3つの視点
金銭を直接もらえる補助金と違い、本事業は「相談相手と試行環境を無料で確保できる」現物支援です。経営者として活用を考える際、次の3つの視点で判断するのが現実的です。
第一に、DXの構想は漠然としているが、社内に旗振り役がいないという状態であれば、まず一般コースに申し込む価値があります。専門家に外から壁打ち相手になってもらうことで、社内会議では出てこない選択肢が見えます。
第二に、ツールは何となく目星がついているが、本当に自社に合うか確信が持てない段階なら、機器トライアル導入コースの受付開始を待ち、現物で試したうえで決定するのが堅実です。導入後の「使われない問題」を防げます。
第三に、すでに具体的なDX投資計画があり、まとまった資金が必要な段階に来ているなら、本事業ではなくIT導入補助金やものづくり補助金など金銭給付型の制度との併用を検討すべきです。本事業はあくまで「最初の一歩」を支援するもので、大規模投資の財源にはなりません。
DX認定や他のDX補助金との関係を整理したい方は、姉妹記事中小企業のDX補助金5制度の比較ガイドもあわせて確認してください。
既存の都内中小企業向けDX支援制度との比較
本事業の位置づけを把握するために、都内中小企業が活用できる主なDX関連制度と並べて整理します。
| 制度名 | 支援の種類 | 自己負担 | 主な対象フェーズ |
|---|---|---|---|
| 中小企業デジタル化ファーストステップ支援事業 | 専門家伴走+機器貸出 | 無料 | DX入口・診断・初期検討 |
| IT導入補助金(国) | 金銭給付(ITツール導入費の一部補助) | 1/2~3/4補助の残額 | ツール選定~導入 |
| ものづくり補助金(国) | 金銭給付(設備投資・システム開発) | 原則1/2自己負担 | 本格投資・開発 |
| 東京都DX推進支援事業(既存) | 専門家派遣・コンサルティング | 制度により無料~一部負担 | 計画策定~実行 |
表からも分かるとおり、本事業は「無料・入口特化」というポジションが明確です。すでにツール選定段階に進んでいる事業者には金銭給付型のIT導入補助金、本格的な設備投資を伴うDXにはものづくり補助金、というように、自社のフェーズに合わせて制度を使い分けるのが効果的です。
よくある質問
本事業は補助金ですか
いいえ、金銭の給付はありません。専門家による伴走支援(最大5回)と、機器トライアル導入コースでのパソコン無料貸出(最大5か月)が中心です。提案を受けてツールを実際に導入する際の契約料は、利用者負担となります。
本社が都外にあるが、都内に支店があります。対象になりますか
都内に事業所がある場合は対象になり得ます。ただし、申込単位・対象範囲の詳細は、事務局(03-4405-2306)に直接確認するのが確実です。
一般コースと機器トライアル導入コースを両方申し込めますか
公式案内では「複数コースの同時申込は不可」とされています。自社の状況に合うコースを選ぶ必要があります。
申込締切はいつですか
執筆時点(2026年5月20日)で公式に明示された締切はありません。事業期間が令和9年3月31日までなので、受付状況は公式サイトで随時確認してください。
申込から初回支援までどのくらいかかりますか
受付開始直後は問い合わせ集中も想定されますが、公式には標準リードタイムの記載がありません。スケジュール感を知りたい場合は事務局に確認するのが早道です。

本記事のまとめ
「中小企業デジタル化ファーストステップ支援事業」は、補助金型のDX支援制度とは性格が異なり、入口でつまずく中小企業に対して、専門家と試行環境を無料で提供する現物支援です。
都内に事業所を持つ中小企業・小規模事業者であれば、デジタル化の検討余地があるかぎり、一般コースへの相談は損になりません。受付開始から間もない今こそ、専門家のスケジュールに余裕があるタイミングです。
制度の使いどころを整理した上で、自社のフェーズに合った国・都の制度と組み合わせていくのが、これからの中小企業DX推進の現実解になります。
関連分野として、伴走支援後の社内体制づくりについては 中小企業のDX推進担当者の選び方と育て方、補助金活用の全体像については 中小企業のDX補助金5制度の比較ガイド をあわせてご覧ください。
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補助金・支援制度の実務情報を、見逃さないために
東京都の今回のような中小企業向けDX支援制度は、公募開始のタイミングを逃すと活用が難しくなります。
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