「ITのことはよく分からない」「高価なシステムを入れても使いこなせるか不安だ」。中小企業の経営者がDX(業務のデジタル化)に踏み切れない理由は、ほぼこの2つに集約されます。補助金を眺めても何から手をつけるか判断できない経営者は少なくありません。
こうした中、静岡県藤枝市の中小企業向け伴走支援が朝日新聞系メディア「ツギノジダイ」で取り上げられ、自治体DX支援の現場が注目を集めています。藤枝市は経済産業省・IPAから「地域DX推進ラボ」に選定され、デジタル経営診断・事例集発行・DXスクール運営まで一体で進めています。
本記事では藤枝市の取り組みを一次情報で整理したうえで、東京都・横浜市・静岡市・福岡県の自治体DX支援と並べて比較します。補助金との使い分け、自社地域で同等の支援を見つける3ステップまで踏み込みます。

藤枝市が進める中小企業DX伴走支援の中身
藤枝市は人口約14万人の静岡県中部の自治体です。市内中小企業のDX推進に対して、市が主導する形で複数の支援メニューを束ねています。
核となるのは2023年10月17日に経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から選定された「地域DX推進ラボ」の枠組みです。これは産学金官連携でICT活用と人材育成を促進する組織を国が支援する制度で、藤枝市の場合は「藤枝ICTコンソーシアム」がその受け皿になっています。
市の支援メニューは大きく3本柱です。
・デジタル経営診断事業: 30問の設問で総務・人事と情報システム、経理、営業、経営の5カテゴリのデジタル化度合いを採点する仕組み。担当は企画創生部 情報デジタル推進課(054-643-3259)、申込窓口は藤枝ICTコンソーシアムサイトです。
・DX事例集の発行: 2026年3月時点で10社の市内事例を収録した冊子をPDFと紙冊子で配布。藤枝製紙、松葉倉庫、扶桑工業、エルシードなど業種・規模の異なる実例を載せます。担当は産業振興部 産業政策課(054-643-3165)。
・藤枝未来DXスクール: 2025年10月開講・全7回の経営者向け実践講座、受講料10,000円(学生無料)。経営企画・営業・人事・経理・情報セキュリティなど業務領域別に学べます。藤枝市産業政策課主催・藤枝ICTコンソーシアム運営。
診断で課題を見える化し、事例集で「他社はこう解いた」を示し、スクールで実務スキルを補う。この3層構造が、補助金単体では拾えない経営者の不安を埋めにいく設計になっています。
自治体DX支援が中小企業の業務デジタル化を変える3つの理由
同じ「DX支援」でも、自治体経由と民間ベンダー経由では中小企業経営者の使い勝手が変わります。藤枝市の事例から見える本質的な強みを3点に整理しました。
第一に「経営者目線で課題を整理する人がいる」点です。市の経営診断は5カテゴリ採点で領域単位の弱点を可視化します。ベンダーの提案は自社製品で解決できる前提に寄りがちですが、診断の主体が自治体だと特定ツールに誘導されにくくなります。
第二に「ローカル人脈で事例が積み上がる」点です。藤枝市のDX事例集は市内10社の実名事例を載せています。同じ商圏・同じ規模感の他社事例は、大企業事例より説得力が桁違いに高まります。経営者会で「うちもやってみるか」となる確率が上がる理由です。
第三に「補助金申請の前段に位置する」点です。多くの中小企業向けDX補助金は導入対象が決まっていないと申請書を書けません。診断・事例・スクールで自社の手をつける順番を固めてから補助金に進めば、事業計画も具体的になり、採択確率も上がります。
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中堅・中小企業の経営者がDXに踏み出す際の判断軸を、具体例ベースで整理した一冊です。自治体支援を活用する前に「自社が何を変えたいか」を言語化するためにも役立ちます。
全国の自治体DX支援を比較(東京都・横浜市・静岡市・福岡県・藤枝市)
自治体DX支援は地域ごとに設計が異なります。藤枝市と並ぶ主要都市の制度を、対象・費用・支援回数・運営主体で並べたのが下の表です。
| 自治体・組織 | 事業名 | 対象 | 費用 | 支援回数の目安 | 運営主体 |
|---|---|---|---|---|---|
| 藤枝市 | デジタル経営診断事業/DX事例集/藤枝未来DXスクール | 市内事業者 | 診断は公式案内に料金明記なし/スクールは10,000円(学生無料) | 診断は1回/スクール全7回 | 藤枝市 情報デジタル推進課・産業政策課/藤枝ICTコンソーシアム |
| 静岡市 | 中小企業等DX伴走支援 | 静岡市内中小企業 | 無料 | 対面6回含む計12回程度 | 静岡市 経済局商工部 産業振興課(令和7年度募集は終了) |
| 東京都 | 東京都中小企業振興公社 専門家派遣事業 | 都内中小企業 | 政策課題対応型・カスハラ対策・価格転嫁向けは無料/一般有料事業あり | 無料事業は最大4回/有料事業は最大8回 | 東京都中小企業振興公社 総合支援部 |
| 横浜市 | 横浜市中小企業デジタル人材育成・伴走支援事業 | 横浜市内中小企業 | 無料DX診断あり | 公式案内に詳細回数明記なし | 横浜市/運営事務局 株式会社フォーバル |
| 福岡県 | 福岡県中小企業DX推進センター/生産性向上・賃上げ緊急支援補助金 | 県内中小企業 | センター伴走支援+補助金最大2,250万円 | センター連携で継続 | 福岡県 中小企業DX推進センター(委託運営) |
表から読み取れる傾向は3つです。政令市・都道府県レベルでは無料伴走支援が標準装備、回数は4回~12回が中心レンジ、地方都市規模でも地域DX推進ラボ枠を取れば政令市と遜色ない3層支援を組めることです。「うちの地域には何もない」と決めつけず、自社所在地と近隣自治体の両方を当たる価値があります。
自社地域の自治体DX支援を見つける3ステップ
経営者が自社地域の自治体DX支援を探すには、藤枝市の窓口構造から逆算した3ステップが再現性高く動きます。
ステップ1: 市役所サイトで「DX」「デジタル」「情報政策」を検索する。 多くの自治体は企画系(情報政策課・デジタル推進課)と産業系(産業政策課・商工振興課)の2系統でDX事業を展開しており、藤枝市も診断は情報デジタル推進課、事例集は産業政策課と窓口が分かれています。両方の課のページを当たるのが正解です。
ステップ2: 都道府県の中小企業振興公社・産業振興センターを確認する。 市町村レベルで該当事業がなくても、都道府県の振興公社が無料の専門家派遣を持っていることが多くあります。東京都中小企業振興公社、神奈川産業振興センター、福岡県中小企業振興センターなど、各都道府県に該当組織があります。
ステップ3: 「地域DX推進ラボ」選定地域の一覧をIPAサイトで確認する。 経済産業省・IPA選定の地域には、藤枝ICTコンソーシアムのような産学金官連携の母体組織が存在します。所在地が選定地域かどうかで利用できる支援メニューの厚みが変わります。
この3ステップで半日~1日あれば、自社が使える支援メニューを把握できます。問い合わせはWebフォームより電話のほうが担当者から具体的なメニュー紹介を引き出しやすい印象です。
自治体DX支援と補助金の使い分け判断軸
自治体支援と補助金は、同じ「中小企業のデジタル化を後押しする制度」ですが性質が異なります。補助金は導入対象が具体的に決まっている場合に強みを発揮し、IT導入補助金やものづくり補助金は事業計画書に「何を、いくらで、どう使うか」を書く必要があります。対象が固まっていないと申請が通らないか、通っても使い切れずに返還になる事故が起きます。
一方の自治体伴走支援は「何から手をつけるか分からない」段階で力を発揮します。藤枝市のデジタル経営診断、静岡市の12回伴走、東京都公社の専門家派遣はすべて課題の見える化と優先順位付けが目的です。診断で領域別の優先度が固まってから、補助金を探すのが正攻法です。
| 状況 | 適した制度 | 理由 |
|---|---|---|
| 「DXをやりたいが何から始めるか分からない」 | 自治体伴走支援 | 診断で課題を見える化し、優先順位を経営者と一緒に決められる |
| 「導入したいツール・システムが具体的に決まっている」 | 補助金(IT導入補助金など) | 導入費用の一部を国・自治体が負担。事業計画書が書ける状態なら採択を狙える |
| 「社内に推進できる人材がいない」 | 自治体スクール/専門家派遣 | 外部専門家との並走で社内人材を育てる。藤枝未来DXスクールが該当 |
| 「複数領域を同時にデジタル化したい」 | 自治体伴走+補助金の併用 | 診断で全体像を整理した上で、各領域に個別の補助金を当てる |
順番として推奨できるのは「自治体伴走支援で課題整理 → 補助金で具体的な投資」の2段ロケットです。藤枝市のDX事例集に載る企業の多くも、診断やスクールを起点に、その後の投資判断に進んでいます。
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担当者になったら知っておきたい 中堅・中小企業のための「DX」実践講座(船井総合研究所 デジタルイノベーションラボ/日本実業出版社)
DXジャーニーマップを使って、診断→計画→実行の各段階で何を考えるかを段階的に解説した実践書です。自治体伴走支援を受ける前に経営者と担当者が共有しておくと、相談の質が上がります。
中小企業経営者が今日から動けるアクション
記事を読み終えたら、明日の朝には次の3つのうちどれかを実行できる状態にしておきたいところです。
・アクション1(30分): 自社所在地の市役所サイトを開き、「DX」「デジタル」「情報政策」で検索する。担当課の電話番号をメモする。
・アクション2(1時間): 都道府県の中小企業振興公社・産業振興センターのサイトで、無料の専門家派遣メニューがあるか確認する。
・アクション3(半日): 該当する自治体・公社に電話して、自社の状況(業種・従業員数・現状の課題)を伝え、紹介可能な支援メニューを聞き取る。
藤枝市の事例が示すのは「中小企業のDXは経営者一人で抱え込まなくてよい」という事実です。地域には診断・事例・スクール・専門家派遣がすでに用意されており、情報を取りに行くコストは電話1本で済みます。補助金の公募開始を待つ前に、まず自治体の窓口に電話する。これが、藤枝市の事例から学べる最大の教訓です。
FAQ
Q1. 自治体DX支援は本当に無料で受けられますか?
A. 多くの自治体伴走支援・専門家派遣は無料です(東京都公社の政策課題対応型、静岡市の伴走支援など)。藤枝市デジタル経営診断のように公式案内に料金明示がないものもあるため、申込前に窓口で確認してください。
Q2. 補助金と自治体支援は同時に使えますか?
A. 多くのケースで併用可能です。自治体の診断・伴走支援で課題を整理した後、国や自治体の補助金で具体的な投資を行う流れが標準です。併用可否は個別制度ごとに確認が必要です。
Q3. 地方の小さな自治体でも支援メニューはありますか?
A. 藤枝市(人口約14万人)のように地域DX推進ラボに選定されている地方都市では、政令市と遜色ない3層支援が用意されています。市町村に該当がなくても、都道府県の振興公社が窓口を持っています。
Q4. 自治体支援を受けると特定ベンダーへの誘導はないですか?
A. 自治体主導の診断・伴走支援は特定ベンダーに偏らない設計が原則です。藤枝市の診断も5カテゴリ採点で課題を見える化することが目的で、ツール選定は経営者の判断に委ねられます。
本記事の要点チェックリスト
・地域DX推進ラボ: 経済産業省・IPAが2023年10月から選定する地域DX組織枠組み。藤枝ICTコンソーシアムが該当。
・藤枝市の3層支援: デジタル経営診断/DX事例集(10社収録)/藤枝未来DXスクール(全7回)。
・自治体DX支援の強み: 経営者目線の課題整理/ローカル事例蓄積/補助金申請の前段に位置する役割。
・3ステップで探す: 市役所サイト検索→都道府県振興公社→IPA選定地域確認の順で半日~1日で把握可能。
・補助金との使い分け: 課題不明なら自治体伴走、導入対象が確定なら補助金、複合課題は併用が王道。

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