「AIを入れたいけれど、どこから始めればいいのか分からない」「大手は導入を進めているらしいが、自社のような中小企業がいまから動いて間に合うのか」――そう感じる経営者は少なくないはずです。
2026年5月25日、ラグザス株式会社が公表した「企業のAI活用格差調査」が、その不安を裏付ける結果として話題になっています。従業員1~300名の中小企業では「導入の予定はない・必要性を感じない」が59.0%。一方、従業員5,001名以上の大企業では導入率64.7%。企業規模による導入格差は約2.7倍にまで広がりました。
この記事では、中小企業の経営者・総務責任者向けに、AI導入格差データの読み解き方と、補助金活用を組み合わせた「一歩目」の踏み出し方を整理します。情報は2026年5月25日時点の公開資料に基づきます。

調査が示した中小企業のAI活用格差
ラグザス株式会社は2026年4月3日から4月6日にかけて、全国のビジネスパーソン3,000名を対象に「企業のAI活用格差調査」を実施し、5月25日にプレスリリースで結果を公表しました。
中小企業(従業員1~300名)で「導入の予定はない・必要性を感じない」と答えた割合は59.0%。大企業(従業員5,001名以上)の導入率64.7%と比べると、格差は約2.7倍に達します。さらに大企業では「複数部署・業務で積極活用」が35.7%に達しているのに対し、中小企業のその数字は低水準にとどまっています。
地域別に見ると、地方・地域での「導入予定なし」は62.0%。大都市圏では「複数部署・業務で積極活用」が24.1%なのに対し、その他地方は6.0%。規模だけでなく地理的な格差も同時に進んでいるのが、2026年初夏の状況です。
出典: ラグザス株式会社 プレスリリース「企業のAI活用格差調査」(2026年5月25日)
「導入予定なし」が6割になる構造的な理由
数字の背景には、中小企業の経営現場で繰り返し耳にする3つの事情があります。
第一に、情報システム担当者が不在という構造課題です。先に別記事で取り上げた株式会社kubellストレージの調査(2026年5月7日発表)では、専任の情シス担当者がいない企業が約65%に達しました。AIを「誰が選び、誰が運用するのか」が決まらないまま、検討だけが宙に浮いてしまうケースが多発しています。
第二に、初期費用と運用コストの不透明さです。AIツールはサブスクリプション形式が主流ですが、利用人数・処理データ量・カスタマイズ範囲で月額が大きく変わるため、稟議書を書こうとした時点で見積もり依頼の往復が発生します。経営者が「いくらかかるのか、いくら浮くのか」を一文で言えない状態が、判断を止めます。
第三に、失敗事例の共有不足です。大企業はPoC(概念実証)で失敗しても次の予算が組めますが、中小企業は一度の失敗が固定費として5年間残ります。だから「他社の成功事例」よりも「他社の撤退理由」を知りたいのに、その情報はほとんど流通していません。
参考: 株式会社kubellストレージ「ファイル管理とセキュリティに関する意識調査」(2026年5月7日発表)
大企業との差を「規模の差」と諦めないための視点
格差データは「中小企業はもう追いつけない」という結論に直結するわけではありません。むしろ、中小企業ならではの優位性が3点あります。
ひとつめは、意思決定スピード。大企業のように稟議が3階層を超えることはまずなく、経営者の判断ひとつで翌週から試せます。AI活用は「使ってみて初めて分かる」性質が強いため、この機動力は最大の武器です。
ふたつめは、業務範囲の見通しやすさ。従業員30名規模なら、経営者が業務全体を把握しているケースが多く、「どの作業を自動化すれば月何時間浮くか」を試算しやすい。大企業のように「部署横断のすり合わせ」で半年かかることがありません。
みっつめは、補助金との相性です。中小企業向けの「中小企業生産性革命推進事業(IT導入補助金など)」「事業再構築補助金」は、AI・SaaS導入を対象に含めており、中小企業限定で1/2~2/3の補助率が設定されています。大企業は対象外なので、ここは中小企業の独占領域です。
PR
中堅・中小企業のためのAI導入・活用の教科書(豊島 顕 著/日本実業出版社)
ソニーで現場AIを率いた著者が「安く・小さく・素早く始める」を軸に、AI導入の最初の一歩を解説。経営者が稟議を書く前に1冊通読しておくと、ベンダー任せのリスクを減らせます。
補助金を組み合わせた「一歩目」の設計
「導入予定なし59%」の集団から抜け出すには、最初の1案件を「失敗しても固定費化しない設計」で組むことが要点です。具体的には次の3段階で進めます。
段階1: 月3時間以上かかっている定型作業を1つだけ選ぶ
請求書のPDF読み取り、注文メールの転記、見積書フォーマットの整形、議事録の文字起こし。どの会社にも、月3時間以上を費やしている「誰がやっても同じ結果になる作業」が必ず2~3個あります。最初はその中で1つだけを対象にします。
業務全体のDXを目指すと半年で力尽きますが、1業務に絞れば1ヶ月以内に成果が見えます。経営者から見ると「数字で語れる成功事例」が社内に1つできた状態になり、次の投資判断が早くなります。
段階2: 月額1万円以下のSaaSツールを30日無料で試す
選んだ作業に対して、AI機能付きのSaaSツールを無料トライアル枠で試す。ChatGPT・Notion AI・kintone・freee受発注・楽々Webデータベースなど、月額1万円以下のサービスが2026年時点で多数あります。
ここでの判断軸は「使い続けたいか」ではなく「30日後に月何時間浮いたか」の一点です。10時間以上浮いたら本契約、3時間未満なら別ツールを試す。撤退判断を最初に決めておくことで、稟議の負担が下がります。
段階3: IT導入補助金で本格導入を申請する
トライアルで効果が出たSaaSは、IT導入補助金(中小企業庁所管)の対象である可能性が高い。補助率は通常枠で1/2、デジタル化基盤導入類型で2/3まで設定されており、上限額もカテゴリにより数百万円規模です。
申請にはIT導入支援事業者(認定済みの代理店・コンサル)の協力が必要なので、トライアル段階でツール提供元に「補助金対応の支援事業者は紹介可能か」を確認しておくと、申請工数を圧縮できます。
参考: 中小企業庁「IT導入補助金」公式サイト(最新公募情報は補助金事務局ページで要確認)
中小企業のAI導入 一歩目チェックリスト
| 確認項目 | 基準 | 判定 |
|---|---|---|
| 対象業務 | 月3時間以上の定型作業を1つに絞ったか | YES / NO |
| 撤退基準 | 30日トライアル後の判定基準を数字で決めたか | YES / NO |
| 担当者 | 社内で運用する担当を1名指名したか(兼務可) | YES / NO |
| 初期費用 | 月額1万円以下のサービスから始めるか | YES / NO |
| 補助金 | IT導入補助金など中小企業向け制度を確認したか | YES / NO |
5項目すべてに「YES」がついたら、来月の経営会議でGOサインを出せる状態です。逆に「NO」が2つ以上あれば、案件を一段階小さく切り直すと進みやすくなります。
PR
勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書(野口浩之・長谷川智紀 著/日本実業出版社)
DXコンサルティングの現場で頻発する「途中で止まるDX」の原因と立て直し方を整理した1冊。AI導入の前段にあたるデジタル基盤づくりの順番を、経営判断の視点から確認できます。
よくある質問
Q1. AI導入の予算ゼロでも始められますか
無料版から始められます。ChatGPTやGoogle Geminiの無料プランは、議事録要約・メール下書き・調査タスクで日常的に使えます。まず1ヶ月、経営者自身が業務に使ってみてから、有償プランの導入可否を判断する流れが現実的です。
Q2. 情シスがいない会社でも運用できますか
可能です。ただし社内で1名「窓口担当」を決めることが条件になります。技術者である必要はなく、ツール提供元とのやりとりを月1~2時間こなせる人で十分です。経理担当者や総務担当者が兼務するパターンが多い。
Q3. 失敗したときの撤退コストはどのくらいですか
月額1万円以下のSaaSで12ヶ月契約なら、最大12万円。トライアル期間中に判定すれば撤退コストはほぼゼロです。重要なのは「失敗を許容する仕組み」を最初に組み込むことで、稟議書に「撤退条件」を明記しておくと判断が早まります。
Q4. 補助金の申請は自社だけでできますか
IT導入補助金は、認定されたIT導入支援事業者の協力が必須です。ツール提供元が認定事業者であるケースが多いので、トライアル段階で確認しておきます。書類作成は支援事業者と分担できるため、自社のみで完結する必要はありません。
Q5. AIを導入したら従業員の仕事がなくなりませんか
中小企業のAI導入は、人を減らすのではなく「いまいる人で売上を伸ばす」設計が現実的です。定型作業を自動化して浮いた時間で、顧客提案・新商品開発・採用活動に充てる事例が多く、結果として人手不足の緩和と売上拡大の両立を実現しています。

まとめ:格差データは「いまから動く」根拠になる
ラグザス株式会社の調査が示した「中小企業の59%がAI導入予定なし」という数字は、見方を変えれば市場のうち6割がまだ手付かずということです。先行した4割の中小企業がノウハウを蓄積し終わる前に、自社の業務に最適な1案件で「一歩目」を踏み出せば、地域内の競合に対しても優位性を確保できます。
DXマスターズでは、中小企業の経営者・総務責任者向けに、補助金活用と業務デジタル化を組み合わせた最新ノウハウを毎週メールマガジンで配信しています。「読んでから判断する」スタイルで情報収集したい方は、下記からご登録ください。
関連記事: 情シス不在65%の中小企業がAI導入で詰む3つの落とし穴(同サイト内)も併せてご覧ください。
