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なぜ不動産業界はFAXをやめられないのか

「うちもそろそろFAXをやめたい」。中小不動産会社の経営者から、ここ数年で何度も聞く言葉です。ところが宣言した会社の多くが、半年後もFAX機の前で受信用紙を待っています。やめられないのは「やる気がない」からではありません。不動産業界に固有の構造と、その奥にある心理が、FAXを業務の真ん中に留め続けているからです。

この記事では、ツールの乗り換え手順ではなく、なぜ不動産業界だけがFAXを手放せないのかという一点を、業界構造と人の心理の両面から読み解きます。自社の意思決定の癖を知る材料として読んでください。情報は2026年5月時点の公開資料に基づきます。

なぜ不動産業界はFAXをやめられないのか - 解説

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不動産業界のFAX残存率は、なぜ突出するのか

情報通信ネットワーク産業協会の2024年7月の調査では、不動産・住宅業界のFAX利用率は63.6%でした。全業界平均の40.1%を大きく上回ります。不動産テック企業イタンジの執行役員は「たまに使うケースを含めれば、実際にはほぼ100%の不動産会社がFAXを使っている」とも語っています。

一方で、不動産業界はDXに後ろ向きなわけではありません。イタンジが2025年7月から8月にかけて実施した不動産業界のDX推進状況調査(回答1,286名)では、98.6%が「DXを推進すべき」と回答し、DX経験者の76.2%が効果を実感したと答えています。賃貸管理システムや入居申込システムの導入も進んでいます。

つまり、不動産業界は「DXに無関心だからFAXを使っている」のではありません。DXの必要性を強く認識しながら、それでもFAXだけは残る。この矛盾こそが、業界固有の事情を物語っています。

出典: 情報通信ネットワーク産業協会「FAXに関する調査」(2024年7月)/イタンジ株式会社「不動産業界のDX推進状況調査2025」(2025年)

FAXを残す「業界構造」の3つの正体

まず、心理の前に構造があります。不動産業界のFAXは、個社の都合ではなく、業界全体の仕組みとして埋め込まれています。

第一に、業者間の物件流通です。賃貸でも売買でも、物件情報や図面は元付業者から客付業者へとFAXで流れます。相手が誰であっても1枚送れば届くFAXは、相手のメール環境やアプリの有無を気にせず使える「最大公約数の連絡手段」になっています。自社だけメールに変えても、相手がFAXのままなら受信側で結局FAXが必要です。

第二に、入居申込のスピード競争です。人気物件では、申込書を1秒でも早く元付業者に届けた会社が優先交渉権を得る商習慣があります。電話で空室を確認し、その場で申込書をFAXするという一連の流れは、メール添付よりも「即時に紙が出てくる」確実さで選ばれてきました。送信即着信という体感の速さが、競争のなかで武器になっているのです。

第三に、事業者規模の偏りです。不動産業界は従業員数名規模の事業者が大多数を占めます。専任のシステム担当を置けない会社では、新しいツールの選定・導入・教育に割く人手がそもそもありません。「困っていない道具を、誰の指示で、誰が入れ替えるのか」が決まらないまま、FAXが現役で残ります。

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構造の奥にある「心理」を読み解く

構造は理由の半分です。残りの半分は、紙とFAXに向ける人の感情にあります。ここが他業界との決定的な違いです。

1. 紙が「証拠」として安心を生む

不動産取引は金額が大きく、後々のトラブルが訴訟に発展することもあります。だからこそ「いつ・何を・誰に送ったか」が紙で手元に残るFAXの送信記録は、担当者にとって心理的なお守りになります。データはいつか消えるかもしれないが、紙は引き出しに残る。この安心感は、合理性だけでは崩せません。

2. 高齢層の「手が覚えた手順」を変える負荷

不動産業は経営者・実務者ともにベテランが多い業界です。長年くり返した「電話して、書いて、流す」という手順は、頭ではなく手が覚えています。新しい画面の操作を覚える負荷は、若手が想像する以上に重く、ミスへの不安にも直結します。変えない選択は、怠慢ではなく自衛でもあるのです。

3. 「相手に合わせる」という関係性の気遣い

不動産の取引は、同じ地域の業者との長い付き合いで成り立ちます。相手がFAX中心なら、こちらだけメールに切り替えるのは「相手に手間をかけさせる」行為に映ります。波風を立てたくない、取引を止めたくないという気遣いが、業界全体を現状維持へと引き戻します。

「業界×心理」で見ると、打ち手の順番が変わる

ここまで読むと、FAX問題が単なるツール選びではないことが見えてきます。次の表は、よくある「やめられない理由」を、構造の問題と心理の問題に切り分けたものです。

やめられない理由 正体 動かす相手
取引先がFAXのまま 業界構造 地域の業者ネットワーク全体
申込を最速で送りたい 業界構造(商習慣) 元付業者の運用ルール
紙が残らないと不安 心理(安心) 自社の担当者の感情
操作を覚えるのが負担 心理(変化への抵抗) ベテラン実務者
相手に手間をかけたくない 心理(関係性) 取引相手との距離感

構造の問題は自社単独では動かせません。地域の業者全体が動くか、業界標準が変わるのを待つしかない部分があります。一方で、心理の問題は自社のなかで対処できます。たとえば「紙が残らない不安」は、受信を自動でデータ保存し、必要時に印刷できる仕組みを用意すれば、安心の置き場所を移すだけで解けます。

大切なのは、構造由来の理由と心理由来の理由を混同しないことです。「取引先がFAXだから無理」と諦める前に、自社の中に残っている理由が本当に構造なのか、それとも変化への不安なのかを見分ける。この切り分けこそが、FAX問題に向き合う第一歩になります。

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なぜ不動産業界はFAXをやめられないのか - まとめ

本記事のまとめ

不動産業界がFAXを手放せないのは、業者間流通・申込スピード競争・小規模事業者の多さという業界構造と、紙への安心感・変化への抵抗・取引先への気遣いという心理が、二重に絡み合っているからです。DXの必要性は98.6%が認めているのに、FAXだけが残る。この矛盾は、理由を構造と心理に切り分けてはじめて解けます。

自社にFAXが残る本当の理由はどちらなのか。まずそこを見極めることが、納得感のある一歩につながります。

「やめたいのに、やめられない」をほどきたい経営者へ

FAXに限らず、根強い業務慣習をどの順番で見直すかは、中小企業のDXで最初につまずくポイントです。
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