毎年11月になると総務・経理担当者の頭を悩ませるのが年末調整の紙書類の山です。扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除申告書、保険料控除申告書――従業員30人の会社でも、回収・確認・修正依頼・保管まで含めると年間15時間以上の手作業が発生します。
「また今年も書いてもらったのに読めない字で困る」「差し替え書類をもらい忘れた」「7年分の紙の保管場所がない」――そんな悩みを根本から解消するのが年末調整のペーパーレス化です。
この記事では、従業員10~100名規模の中小企業が年末調整を電子化するための手順・ツール・コスト・注意点を、わかりやすく解説します。2026年(令和8年)分の年末調整に間に合わせるための準備ポイントもお伝えします。
年末調整のペーパーレス化とは?
年末調整のペーパーレス化とは、従業員が紙に手書きして提出していた各種控除申告書をスマートフォンやPCから電子入力し、会社側も電子データとして受け取り・保管する仕組みのことです。
2020年度の税制改正により、税務署への届出なしで年末調整を電子化できるようになりました。これにより中小企業でも手軽に始められる環境が整っています。
対象となる書類は以下の4種類です。
・扶養控除等(異動)申告書: 全従業員が毎年提出する最も基本的な申告書
・基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書: 年収が一定以上の人が対象
・保険料控除申告書: 生命保険・地震保険などの控除を申告する書類
・住宅借入金等特別控除申告書(住宅ローン控除): ローン控除の2年目以降が対象
これらを電子化することで、紙の印刷・配布・回収・保管をまるごとなくすことができます。
| 工程 | ペーパーレス前 | ペーパーレス後 |
|---|---|---|
| 書類配布 | 印刷・手渡し(1~2時間) | システムから自動案内(0分) |
| 従業員入力 | 手書き(紛失・字が読めないリスク) | スマホ・PCから入力(自動チェック付き) |
| 回収・確認 | 未提出者への個別催促(3~5時間) | システムで提出状況を一覧確認(30分) |
| 計算・給与連携 | 手入力または転記(5~8時間) | 給与システムへ自動連携(ほぼ0分) |
| 書類保管 | 紙で7年間保管(収納スペース必要) | クラウドに自動保存(スペース不要) |
導入のメリット(数字で示す効果)
ペーパーレス化で得られる効果は大きく3つです。
【時間削減】年間15時間の手作業がほぼゼロに
従業員30名規模の場合、紙による年末調整の工数は年間12~18時間かかるケースが典型的です。電子化後は未提出者への催促・集計・転記作業がシステム化されるため、実務工数を年間12時間前後削減できる会社が多くあります。
【コスト削減】印刷・郵送コストが年間3万円前後削減
従業員30名分の申告書類を印刷・封入・郵送(テレワーク者対応)すると、用紙代・インク代・郵送費合計で年間2万~4万円かかります。電子化でこのコストがなくなります。
【ミス削減】記入漏れ・誤記のチェックを自動化
紙の場合、名前の漏れ・金額の誤記・印鑑忘れに気づくのが締め切り間際になりがちです。電子化ツールは入力必須項目・金額の桁数・マイナンバーの整合性を自動でチェックするため、差し戻し対応が大幅に減ります。
具体的な進め方(4ステップ)
1. 現状の年末調整フローを整理する
まず「現在どんな書類を、誰に、どう配って、どう回収しているか」を棚卸しします。確認すべきポイントは以下の通りです。
・従業員のうち、テレワーク・パート・外出が多い人の割合
・給与計算ソフト(freee人事労務、マネーフォワード、弥生給与等)の種類
・現在の書類保管方法(紙ファイル・スキャン保存・クラウド保存)
・過去の年末調整で発生した差し戻し件数とその原因
この棚卸しをすることで、どの工程を電子化すると最も効果が出るかが明確になります。
2. 年末調整ツールを選ぶ
市場には大きく「人事労務システムに内蔵されたもの」と「年末調整専用ツール」の2種類があります。
| ツール | 種類 | 費用目安(年末調整機能) | 給与計算との連携 |
|---|---|---|---|
| SmartHR | 人事労務一体型 | 月額3万円前後(規模により変動) | 自社給与連携 or API連携 |
| マネーフォワード クラウド年末調整 | 年末調整専用プランあり | 月額3,000円/人前後 | 同社給与システムと自動連携 |
| freee人事労務 | 人事労務一体型 | 月額2,420円~(スモールビジネス) | freee会計・給与と自動連携 |
| オフィスステーション年末調整 | 年末調整専用 | 年額5,500円/ユーザー(1年1回) | CSV出力で既存給与ソフトに取込 |
※上記は執筆時点(2026年6月)の参考価格です。最新の料金は各社公式サイトでご確認ください。
既に給与計算ソフトを使っている場合は、同じベンダーの年末調整機能を追加するのが最もスムーズです。別ベンダーのツールを使う場合は、CSVでのデータ連携が可能かを事前に確認しましょう。
3. 従業員への周知と入力案内を行う
年末調整電子化で最もつまずきやすいのが従業員への説明・操作案内です。ITに慣れていないパート・アルバイトスタッフに対しては、以下の準備が有効です。
・案内メール/チャット送信: 操作手順を画面キャプチャ付きで説明したPDFを配布
・Q&A集を用意: 「スマホでできますか?」「マイナンバーをどこで確認しますか?」など想定質問を事前に回答
・締め切りを余裕を持って設定: 紙より1週間早めに締め切りを設け、未提出者への自動リマインドを活用
・担当者への個別サポート窓口を設置: 総務担当が対応する時間帯をあらかじめ周知しておく
初年度は「スマホが苦手な人への個別サポート」に時間がかかりますが、2年目以降は従業員も慣れるため、工数は大幅に減ります。
4. 電子帳簿保存法に沿った保管設定を確認する
電子的に作成・受領した申告書類は電子帳簿保存法に基づく保管が必要です(保存期間は7年間)。年末調整ツールを選ぶ際、以下の保管要件を満たしているかを確認しましょう。
・検索機能: 氏名・年度で検索できること
・改ざん防止: タイムスタンプ付与 or アクセス制限+変更履歴管理
・バックアップ: データが消えないクラウド保管であること
大手の年末調整ツールはほぼすべてこれらの要件を満たしていますが、「スキャン保存のみ対応」のツールは要注意です。電子的に作成したものは電子保存が原則のため、一度スキャンして保管する必要はありません。
かかるコストと使える補助金
【コスト】導入費用の目安
従業員30名規模での年末調整電子化コストは以下が目安です。
| 費用項目 | 費用目安(従業員30名) | 備考 |
|---|---|---|
| 年末調整ツール月額 | 年額3万~10万円 | ツールの種類・機能範囲による |
| 初期設定・従業員登録 | 1~3時間の工数 | 給与データのCSV取込が多い |
| 従業員向け案内資料作成 | 2~4時間の工数 | 初年度のみ |
年間ランニングコストは3万~10万円程度が目安で、削減できる工数・印刷コスト(年間3万円前後)と比べてもROIが出やすい投資です。
【補助金】IT導入補助金が活用できるケースも
年末調整を含む人事労務機能(SmartHR・freee人事労務・マネーフォワード クラウド人事労務等)はIT導入補助金のデジタル化基盤導入類型の対象になる場合があります。補助率は最大75%です。
ただし補助金の対象ツールや申請条件は公募回ごとに変わります。最新の公募要領はIT導入補助金の公式サイト(執筆時点: 2026年度分)で必ず確認してください。補助金申請のサポートをしてくれる認定ITベンダーに相談するのも有効です。
よくある失敗と回避策
【失敗1】給与ソフトと連携できず二重入力が発生する
年末調整ツールと給与計算ソフトがバラバラのベンダーだと、データの手動移行が必要になるケースがあります。導入前に「CSV取込ができるか」「API連携が可能か」を必ず確認しましょう。連携できないツールを選んでしまうと、ペーパーレス化したのに転記作業が増えるという本末転倒な事態になります。
【失敗2】提出締め切りを過ぎて給与計算に間に合わない
電子化しても従業員の提出期限管理は必要です。システムの自動リマインドを活用しつつ、締め切り3日前に未提出者リストを出力して直接声をかけるフローを組み合わせると安心です。「電子化したら管理が楽になると思っていたのに、未提出が増えた」という声は導入初年度によく聞かれます。
【失敗3】マイナンバーの取扱いが不適切になる
年末調整では従業員・扶養家族のマイナンバーを取り扱います。電子ツール上でのマイナンバー管理にはアクセス権限の設定(担当者以外は閲覧不可)が必須です。ツール選定時に「マイナンバー管理機能の有無」と「セキュリティ認証(ISO 27001等)の取得状況」を確認しましょう。
本記事のまとめ
年末調整のペーパーレス化は、2020年の税制改正によって税務署への届出なしで導入できるようになりました。従業員30名規模で年間12~15時間の工数削減が見込める実践的なDX施策です。
・2026年分(令和8年分)の年末調整に向けて、今から準備しておくと余裕を持って導入できます。
・ツールは既存の給与計算ソフトと連携できるものを選ぶのが最優先
・電子帳簿保存法の保管要件(検索機能・改ざん防止)を満たしているか確認
・初年度は従業員への操作案内に時間をかけるほど、2年目以降の工数が劇的に減る
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