MENU

中小企業の手形・小切手廃止ガイド|電子記録債権(でんさい)への移行で資金繰りを安全に守る方法

「来月から手形の発行を止めます」——取引先からこんな通知が届いたとき、すぐに対応できますか?

大企業を中心に約束手形(紙手形)の廃止が相次いでいます。政府・経済産業省・中小企業庁も手形の支払サイト短縮を強く指導しており、この流れは今後さらに加速する見通しです(執筆時点: 2026年9月)。

「でんさい(電子記録債権)って何?」「銀行で何を申し込めばいい?」「資金繰りに影響が出るのでは?」と不安を抱えている経営者も多いでしょう。

この記事では、従業員10~100名の中小企業経営者・経理担当者向けに、手形・小切手廃止の背景から、でんさいへの移行手順、コストの目安、よくある落とし穴まで、実務的な視点で解説します。

中小企業の手形・小切手廃止ガイド|電子記録債権(でんさい)への移行で資金繰りを安全に守る方法 - 解説

目次

手形・小切手の廃止はなぜ進んでいるのか

約束手形は日本で長年使われてきた信用取引の仕組みですが、次の3つの問題を抱えています。

・紛失・盗難リスク: 紙の手形は物理的な書類であるため、紛失すると回収が困難です。盗難に遭えば悪用されるリスクもあります。
・印紙税の負担: 手形金額に応じた印紙税が毎回発生します。少額でも積み重なると年間で相当な負担になります。
・長い支払サイトと下請法の問題: 下請法の改正により、手形の支払サイト(発行から期日まで)は60日以内が努力義務化されました。これに違反すると取引先から指摘を受けるリスクがあります。

こうした課題を解消するために、政府・経済産業省・中小企業庁は「手形等のサイト短縮について」の指導を強化してきました。大手製造業・流通業を中心に「〇〇年度中に紙手形の発行を終了する」と表明する企業が増えており、その影響は下請・協力会社である中小企業に直接届き始めています。

でんさい(電子記録債権)とは何か

でんさいとは、全国銀行協会が出資して設立した「でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク株式会社)」が運営する電子記録債権のことです。

一言で言えば「約束手形をデジタル化したもの」です。紙の代わりにシステム上で発生・流通・決済が完結するため、印紙税は不要で、紛失リスクもありません。

項目 紙の約束手形 でんさい(電子記録債権)
発生・受取 郵送または手渡し インターネットバンキング上で電子的に完結
紛失リスク あり(紛失時の手続きは複雑) なし(システム上に記録される)
印紙税 必要(金額に応じて課税) 不要
期日前換金(割引) 銀行窓口での割引手続きが必要 でんさい割引としてネットバンキングで申込可能
分割譲渡 不可 可能(一部だけ割引もできる)
保管コスト 金庫・書類保管が必要 不要(データで管理)

でんさい移行のメリット(コスト試算)

でんさいへの移行で削減できる主なコストと工数は次のとおりです。

・印紙税の削減: 手形1枚あたり200円~60万円(金額に応じて)。月10枚の手形を発行・受取していれば、年間数万円規模の削減になるケースもあります。
・郵送・封筒代の削減: 手形の郵送が不要になるため、1件あたり数百円のコストがゼロになります。月20件の取引なら年間5万円前後の節約。
・経理担当者の作業時間の削減: 受取・金庫保管・期日管理・銀行持込といった手形まわりの事務作業が月5~10時間程度削減できます。
・紛失事故リスクの排除: 手形の紛失は弁護士費用を伴う場合もあります。でんさいは紛失リスクがないため、この潜在コストもゼロになります。

でんさい移行の具体的な手順(4ステップ)

1. 取引銀行にでんさい利用申込を行う

でんさいは、でんさいネットに加盟する金融機関(メガバンク・地方銀行・信用金庫など)を通じて利用します。まず、メインの取引銀行の窓口またはインターネットバンキングのサービスメニューで「でんさい利用申込」を行いましょう。

申込後、でんさいネット上の「利用者番号」が発行されます。この番号を取引先に伝えることで、相手からでんさいを送付してもらえるようになります。

申込から利用開始まで、おおむね2週間~1か月程度かかります。取引先から廃止通知を受けてから慌てないよう、早めに動くことが大切です。

2. 取引先(発注元)に利用者番号を通知する

でんさいを受け取るためには、取引先に自社の「でんさい利用者番号」と「取引銀行名・支店名」を伝える必要があります。

多くの場合、発注元の担当者から「でんさい切替のご案内」として所定のフォームや通知書が届きます。そこに番号を記入して返送する形が一般的です。自社から先に動く場合は、口頭やメールで番号を連絡するだけで構いません。

3. 社内の経理フローをでんさいに合わせて更新する

手形の場合は「受取→金庫保管→期日前に銀行持込」という流れでしたが、でんさいは「インターネットバンキング上で確認→期日に自動入金」が基本です。経理フローをあらかじめ整理しておきましょう。

・でんさい残高の確認方法: インターネットバンキングの「でんさい」メニューで一覧確認できます。Excelでの別途管理は不要になります。
・でんさい割引の手続き: 期日前に現金化が必要な場合は、銀行の窓口またはネットバンキングで割引申込ができます(割引料として手数料が発生します)。
・電子帳簿保存法への対応: でんさいの取引記録も電子取引データの保存義務の対象です。銀行から発行される取引明細をPDFで保存するか、会計ソフトに取り込む運用ルールを定めましょう。電子帳簿保存法全体の対応方法はこちらの記事で詳しく解説しています。

4. 既存の紙手形を消化しながらでんさいに完全移行する

取引先が「〇月〇日をもって紙手形の発行を終了」と通知してきた場合、その日以降の取引はでんさいで処理されます。既に受け取っている紙手形は期日どおりに決済されるため、期日管理を続けながら順次消化していきます。

自社が手形を発行している側の場合は、取引先と切替時期を合意した上で移行を進めます。「いつまでに切り替えるか」を先方と明確にしておくことがトラブル防止の要点です。

でんさいにかかるコストの目安

でんさいの利用コストは取引銀行によって異なります。以下はおおよその目安です(執筆時点: 2026年9月。各行の代表的な料金体系をもとにした参考値)。

費用項目 金額の目安 備考
利用登録料 無料~数千円(銀行による) 多くのメガバンク・地銀は無料
でんさい発生(発行)手数料 1件あたり200円~500円程度 銀行・件数によって異なる
でんさい受取手数料 無料~数百円 受取は無料の銀行が多い
でんさい割引手数料 年利換算(市場金利に連動) 期日前換金時のみ発生
月額システム利用料 0円~3,300円程度 件数が多い場合は定額プランあり

紙手形の印紙税・郵送コスト・保管コストを合わせると、多くのケースでトータルコストは下がります。取引銀行に「紙手形と比較した場合のコスト試算」を依頼すると、自社の取引件数に合わせた具体的な数字で比較できます。

よくある疑問と失敗パターン

「でんさいネット」と「電子手形サービス」は別物?

「でんさいネット」は公的な電子記録債権の標準インフラです。一方、一部のフィンテック企業が提供する「電子手形サービス」「ファクタリングサービス」は異なる仕組みです。取引先が「でんさいで送ります」と言った場合は、でんさいネット経由での送付を指しています。混同して別サービスに申し込まないよう、取引銀行に確認しながら進めましょう。

取引先がでんさいに対応していない場合は?

でんさいを受け取る側もでんさいネットに加盟している必要があります。取引先が未加盟の場合は、銀行振込に切り替えるのが一般的です。ただし、でんさいネットへの加盟は無料または低コストの銀行が多いため、「一緒に申し込んでみましょう」と提案することも選択肢の一つです。

資金繰りへの影響が心配

でんさいは期日前に割引(早期換金)できる点は紙手形と変わりません。むしろ「債権を分割して一部だけ割引する」ことができるため、資金繰りの柔軟性は上がります。割引手数料は市場金利に連動するため変動しますが、必要な金額だけを必要なタイミングで換金できるのはでんさいの大きなメリットです。

経理ソフトとの連携はどうなるか

弥生・freee・マネーフォワードなど主要な会計ソフトは、インターネットバンキングとのデータ連携機能を通じてでんさい取引を取り込めます。紙手形の仕訳は手入力が多かったのに対して、でんさいはデータとして自動取込できるため、経理の自動化という観点ではでんさいのほうが有利です。

ハンコレス化・電子インボイスとあわせて進めるペーパーレス化

手形廃止はペーパーレス化の一環として捉えると、社内での推進理由が明確になります。同時期に取り組むと相乗効果がある施策として、次のものが挙げられます。

・電子署名・ハンコレス化: 契約書や申請書のハンコをなくして承認フローを電子化する。詳細はハンコレス化ガイドをご覧ください。
・電子インボイス(Peppol)対応: インボイス制度に合わせた請求書の電子化。電子インボイス導入ガイドで手順を解説しています。
・ペーパーレス化全体の進め方: まだ紙書類が多く残っている場合は、ペーパーレス化の始め方ガイドで全体像を把握するのが近道です。

セキュリティ面での管理体制強化については、姉妹サイトセキュリティマスターズ.TOKYOでも経営者向けの解説を掲載しています。

中小企業の手形・小切手廃止ガイド|電子記録債権(でんさい)への移行で資金繰りを安全に守る方法 - まとめ

本記事のまとめ

手形・小切手廃止の波は、大手取引先の方針変更という形で中小企業にも直接届き始めています。「うちは関係ない」と思っていても、発注元から突然の廃止通知が届くケースが増えています。

でんさい(電子記録債権)への移行は、手順を踏めば難しくありません。まず取引銀行に相談し、申込→利用者番号の取得→取引先への通知、という3つのステップを進めましょう。

・でんさいのメリット: 印紙税不要・紛失リスクゼロ・経理作業の月5~10時間削減
・移行のポイント: 廃止通知を受ける前に取引銀行へ早めに申込(開始まで最大1か月)
・コスト: 1件あたり数百円の手数料は発生するが、印紙税・郵送・保管コストの削減でトータルコストは多くのケースで下がる
・電子帳簿保存法: でんさいの取引記録の保存義務にも対応が必要

「通知が来てから動く」ではなく、今のうちに取引銀行に問い合わせを入れておくことが、スムーズな移行のいちばんの近道です。

PR

勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書(野口浩之・長谷川智紀/日本実業出版社)

手形廃止・ペーパーレス化を含む中小企業のDX全体像を体系的に学べる一冊。現場感覚に基づいた実践的な解説で、経営者・DX担当者どちらにも役立ちます。

関連記事をもっと読む

同じテーマの記事をまとめています。あわせて読みたい記事はこちらからご覧いただけます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次