「電子帳簿保存法に対応しろと言われたが、何から手をつけていいかわからない」——従業員30名前後の中小企業の経営者や経理担当者から、こうした相談が増えています。2022年1月の改正で電子取引データの紙保存が原則廃止となり、2024年1月からは完全義務化されました。とはいえ、法律の条文を読んでも専門用語ばかりで、実務に落とし込むのは容易ではありません。
この記事では、電子帳簿保存法(以下、電帳法)への対応を、従業員10~100名規模の中小企業向けにわかりやすく解説します。実務で押さえるべき3つの区分、具体的な対応ステップ、かかる費用と使える補助金、そしてつまずきやすいポイントまで、経理業務を何社も支援してきた立場から整理しました。
電子帳簿保存法とは?経営者が知っておくべき3つの区分

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。紙で保存するのが原則だった帳簿書類を、一定の要件を満たせば電子データのまま保存してよい、という建付けになっています。ここで重要なのは、電帳法が扱う電子化には3つの区分があり、それぞれ対応の仕方がまったく違うという点です。
1. 電子帳簿等保存(任意対応)
会計ソフトで作成した仕訳帳・総勘定元帳、自社で作成した請求書の控えなどを、紙に出力せず電子データのまま保存する区分です。対応は任意で、やらなくても罰則はありません。ただし優良電子帳簿の要件を満たすと、過少申告加算税が5%軽減されるなどのメリットがあります。
2. スキャナ保存(任意対応)
紙で受け取った請求書や領収書をスキャナやスマートフォンで読み取り、画像データとして保存する区分です。こちらも任意ですが、対応すれば紙の原本を廃棄できるため、書庫スペースの削減につながります。
3. 電子取引データ保存(義務)
メール添付で受け取った請求書のPDF、Amazonビジネスの領収書、クラウドサービスの利用明細など、最初から電子データでやり取りした書類を電子のまま保存する区分です。2024年1月以降、これは完全義務化されており、紙に印刷して保存するだけでは要件を満たしません。中小企業がまず対応すべきは、この3つ目の電子取引データ保存です。
電子取引データ保存で求められる4つの要件
義務化された電子取引データ保存では、次の4つの要件を満たす必要があります。表にまとめました。
| 要件 | 内容 | 実務での対応例 |
|---|---|---|
| 真実性の確保 | データが改ざんされていないことを担保する | タイムスタンプ付与、または事務処理規程の整備 |
| 可視性(検索機能) | 取引年月日・取引金額・取引先で検索できる | ファイル名に規則を設ける、または専用システム利用 |
| 可視性(表示) | ディスプレイとプリンタで速やかに出力できる | 通常のPC環境で十分 |
| 関係書類の備付け | システムの概要書やマニュアルを備える | ベンダー提供の書類またはA4一枚の自社文書 |
このうち中小企業がもっとも悩むのが「真実性の確保」と「検索機能」です。タイムスタンプの仕組みを自社で構築するのはハードルが高いため、多くの企業は事務処理規程を整備する方法を選びます。事務処理規程のひな形は国税庁のサイトで無料配布されており、自社の運用に合わせて文言を調整するだけで済みます。
中小企業が電帳法に対応する3ステップ
では実務として、何からどう進めればよいのでしょうか。中小企業が無理なく対応するための3つのステップを紹介します。
ステップ1. 受領している電子取引データを棚卸しする

まず、自社が電子データで受け取っている書類を洗い出します。メール添付のPDF請求書、ECサイトの領収書ダウンロード、クラウド利用明細、EDIのデータなど、思った以上に種類があるはずです。1週間ほど経理担当者に記録してもらうと、全体像が見えてきます。この棚卸しをしないまま仕組みを導入すると、抜け漏れが発生して後から追加対応が必要になります。
ステップ2. 保存方法を決める(規程整備型かシステム導入型か)
次に、どの方法で保存するかを決めます。選択肢は大きく2つです。ひとつは事務処理規程を整備し、共有フォルダにルールに従って保存する方法。コストはほぼゼロですが、ファイル名の付け方や保存先を全社で徹底する運用負担があります。もうひとつは電帳法対応をうたう専用クラウドサービスを導入する方法。月額3,000円から20,000円程度で、検索機能やタイムスタンプを自動で処理してくれます。従業員30名程度の会社であれば、月の電子取引件数が100件を超えるあたりから、後者のシステム導入が現実的になります。
ステップ3. 社内ルールを決めて運用を始める
方法が決まったら、社内ルールを文書化し、関係者に周知します。「メールで受け取った請求書は○○フォルダに、ファイル名は日付_取引先_金額で保存する」といった具体的な手順に落とし込むことが重要です。ルールが抽象的だと、担当者ごとにバラバラの運用になり、後から検索できない事態を招きます。運用開始から1か月後にレビューの時間を設け、現場の声を反映させてルールを調整するとよいでしょう。
かかるコストと使える補助金

電帳法対応の費用は、選ぶ方法によって大きく変わります。規程整備型であれば実質的な新規支出はゼロで、共有フォルダと既存のPC環境だけで対応可能です。一方、専用クラウドサービスを導入する場合、初期費用0~50,000円、月額3,000円から20,000円が目安になります。従業員30名規模で月額5,000円のサービスを選べば、年間6万円の支出です。
費用負担を軽減したい場合は、IT導入補助金の活用を検討しましょう。電帳法対応のクラウドサービスの多くは、IT導入補助金のデジタル化基盤導入類型の対象ツールに登録されており、最大で導入費用の4分の3が補助されます。2年分のクラウド利用料もまとめて対象になるため、実質負担を大きく抑えられます。
よくある失敗と回避策
電帳法対応の現場で見かける失敗をいくつか紹介します。まず多いのが「紙で印刷して保存すれば大丈夫」という誤解です。電子取引データは電子のまま保存することが要件なので、紙出力のみの保存は要件違反となり、青色申告の承認取消しリスクもあります。受領した電子データは必ず電子のまま保持してください。
次によくあるのが「システムを入れれば終わり」という思い込みです。どんなに優秀なシステムを導入しても、現場の担当者が正しくファイルをアップロードしなければ意味がありません。導入と同時に、運用ルールと担当者教育をセットで実施することが成功の鍵です。
最後に、担当者一人に丸投げするケースも失敗の典型です。電帳法対応は経理部門だけでなく、営業・購買・総務など電子書類を扱うすべての部門が関わります。経営層が旗振り役となり、横断的なプロジェクトとして進めることで、形だけの対応に終わらず実効性のある仕組みが作れます。
本記事のまとめ
電子帳簿保存法への対応は、中小企業にとって避けては通れないテーマです。しかし、一度に全てを完璧にやろうとせず、まずは義務化された電子取引データの保存から着手するのが現実的な進め方です。規程整備型で始めて、電子取引の件数が増えてきた段階で専用システムへ移行する、という段階的なアプローチでも十分に対応できます。
電帳法対応は「やらされる仕事」ではなく、書類を探す時間の削減や書庫スペースの有効活用など、業務改善のきっかけにもなります。ペーパーレス化全般の取り組みと合わせて進めることで、経理業務の生産性を底上げできるでしょう。DXの第一歩として、ぜひこの機会に自社の電子書類の扱い方を見直してみてください。


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