「営業担当が領収書を月末にまとめて提出してくる」「経理担当が1枚ずつExcelに手入力している」「紙の領収書を7年間保管する棚がもう限界」。従業員10〜100名規模の中小企業では、こうした経費精算にまつわる悩みが日常的に発生しています。
経費精算の処理にかかる時間は、従業員30名の企業で月10〜15時間が相場です。申請する従業員側にも1件あたり15〜20分の手間がかかっており、会社全体で見ると見えないコストが積み上がっています。
この記事では、中小企業の経費精算を電子化する方法について、ツール選びの基準・導入手順・コスト・電子帳簿保存法への対応・使える補助金まで、従業員10〜100名規模の企業向けにわかりやすく解説します。

経費精算の電子化とは?紙の領収書がなくなる仕組み
経費精算の電子化とは、紙の領収書や手書きの精算書をクラウドシステムに置き換え、申請から承認・仕訳までの一連の流れをデジタルで完結させることです。
従来の経費精算では、次のような流れが一般的でした。
・従業員: 紙の領収書を集め、精算書に手書きまたはExcelで記入して提出する
・上長: 紙の精算書を確認し、押印して経理部門に回す
・経理担当: 領収書と精算書を1件ずつ突き合わせ、会計ソフトに手入力する
クラウド型の経費精算システムを導入すると、この流れが大きく変わります。
・従業員: スマートフォンで領収書を撮影すると、日付・金額・取引先が自動で読み取られる
・上長: スマートフォンやパソコンでワンクリック承認する
・経理担当: 会計ソフトに仕訳データが自動で連携される(手入力なし)
つまり、「領収書の整理→手入力→承認待ち→仕訳入力」という4つの工程が、撮影1回と承認クリック1回に集約されるのがポイントです。
導入のメリット — 数字で見る業務改善効果
経費精算を電子化した中小企業では、具体的にどの程度の改善が見込めるのでしょうか。
・経理の集計時間削減: 従業員30名の企業で月10〜15時間かかっていた経費精算処理が、月2〜3時間に短縮されます。年間で約96〜144時間の削減です。
・従業員の申請時間削減: 1件あたり15〜20分かかっていた精算書の記入が、スマートフォン撮影で2〜3分に短縮されます。従業員30名で月30件の経費申請がある場合、月7〜8時間の削減になります。
・入力ミスの防止: OCR(文字の自動読み取り機能)による自動入力で、金額の転記ミスや二重計上がなくなります。
・承認スピードの向上: 出張先からでもスマートフォンで承認できるため、「上司の帰社待ち」で精算が止まることがなくなります。
・電子帳簿保存法への対応: 2024年1月から電子取引データの電子保存が義務化されました。経費精算システムを導入すれば、法律が求めるタイムスタンプや検索要件を自動で満たせます。
| 項目 | 導入前(紙+Excel) | 導入後(クラウド経費精算) |
|---|---|---|
| 経理の月次処理 | 月10〜15時間(手入力) | 月2〜3時間(自動仕訳+確認) |
| 従業員の申請時間 | 1件15〜20分 | 1件2〜3分(スマホ撮影) |
| 承認にかかる日数 | 3〜5営業日 | 即日〜翌営業日 |
| 入力ミスの件数 | 月2〜3件 | ほぼ0件 |
| 紙の領収書保管 | ファイリング+7年間保管 | 電子保存(物理保管不要) |
従業員30名の企業であれば、会社全体で年間約150〜200時間の削減が見込めます。総務・経理担当者の時給を2,000円とすると、年間30〜40万円のコスト削減に相当します。紙・印刷・保管スペースのコストを含めると、さらに年間5〜10万円の削減効果も加わります。

主要ツール比較 — 中小企業に合うのはどれか
中小企業向けのクラウド経費精算システムは多数ありますが、ここでは導入実績が多く、中小企業での利用に適した4つのツールを比較します(執筆時点: 2026年3月)。
| ツール名 | 月額(税抜) | 従業員30名の場合 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 楽楽精算 | ¥30,000〜/月(定額制) | ¥30,000〜/月 | 国内導入社数No.1。操作が直感的でITに不慣れな社員でも使いやすい |
| マネーフォワード クラウド経費 | ¥2,980〜/月(基本料金)+ ¥500/ユーザー | ¥17,980〜/月 | 会計・給与・勤怠とのセット利用で割安。freee会計からの乗り換えにも対応 |
| freee経費精算 | freee会計に含まれる(¥3,980〜/月) | ¥3,980〜/月 | freee会計を利用中なら追加費用なし。シンプルな操作性が強み |
| ジョブカン経費精算 | ¥400/ユーザー | ¥12,000/月 | 勤怠管理やワークフローと同シリーズで統合管理しやすい。初期費用0円 |
どのツールを選ぶべきかは、現在の業務環境によって変わります。判断のポイントを整理します。
・すでにfreee会計を使っている場合: freee経費精算が追加費用なしで最もコストを抑えられます
・会計・給与・勤怠をまとめて効率化したい場合: マネーフォワード クラウドのセット利用がお得です
・ITに不慣れな社員が多い場合: 楽楽精算は操作画面がわかりやすく、社内定着しやすいという評価が多いです
・勤怠やワークフローも一緒に導入したい場合: ジョブカン経費精算がシリーズ連携で管理しやすいです
具体的な進め方 — 3ステップで始める経費精算の電子化
1. 現状を数字で把握する(1〜2週間)
最初のステップは、今の経費精算にどれだけの時間とコストがかかっているかを数字で把握することです。
具体的には、次の3つを確認してください。
・経理担当の処理時間: 月末の経費精算にかかる時間を記録する(目安: 従業員30名で月10〜15時間)
・従業員の申請件数: 月間の経費申請件数と、1件あたりにかかる時間を調べる
・ミス・差し戻しの件数: 金額の入力ミスや領収書の不備で差し戻しになった件数を数える
この数字があると、導入後の改善効果を具体的に計算でき、社内への説明もしやすくなります。
2. ツールを選んで無料トライアルで試す(2〜4週間)
前述の4つのツールはいずれも無料トライアルまたはデモ環境を用意しています。まずは2〜3名の少人数で試してみるのが確実です。
トライアルで確認すべきポイントは3つです。
・領収書の読み取り精度: 手書きの領収書やレシートが正しく読み取られるかを実際に試す
・承認フローの設定: 自社の承認ルート(直属上長→部長→経理)を再現できるかを確認する
・会計ソフトとの連携: 現在使っている会計ソフトにデータをそのまま取り込めるかを試す
3. 段階的に全社展開する(1〜2か月)
トライアルで問題がなければ、部署を限定して本番運用を始めます。いきなり全社導入するのではなく、1部署で2〜4週間運用してから全社に広げるのが失敗しないコツです。
全社展開時には、次の準備をしておきましょう。
・操作マニュアル: スマートフォンでの領収書撮影方法と申請手順を、画面キャプチャ付きでA4用紙1枚にまとめる
・移行期間: 最初の1か月は紙の精算書も受け付ける「併用期間」を設ける
・問い合わせ窓口: 経理担当またはIT担当を窓口として、質問にすぐ回答できる体制を作る
かかるコストと使える補助金
経費精算の電子化にかかるコストは、従業員数とツールの選択によって大きく変わります。従業員30名の企業を例に、年間コストの目安を示します(執筆時点: 2026年3月)。
| ツール名 | 月額目安(税抜) | 年間コスト(税抜) |
|---|---|---|
| 楽楽精算 | ¥30,000〜 | ¥360,000〜 |
| マネーフォワード クラウド経費 | ¥17,980〜 | ¥215,760〜 |
| freee経費精算 | ¥3,980〜 | ¥47,760〜 |
| ジョブカン経費精算 | ¥12,000 | ¥144,000 |
一方、年間30〜40万円の人件費削減効果が見込めるため、多くのケースで1年以内に投資を回収できます。
また、IT導入補助金を活用すれば、導入費用の最大1/2〜3/4が補助されます。2025年度のIT導入補助金(通常枠)では、ソフトウェア費・クラウド利用料(最大2年分)が補助対象でした。2026年度の公募要領は執筆時点では未発表のため、中小企業庁のIT導入補助金公式サイトで最新情報を確認してください。
補助金の申請には「IT導入支援事業者」を通す必要があります。前述の4ツールはいずれもIT導入補助金の対象ツールとして登録実績があるため、各ツールの営業担当に「補助金を使いたい」と伝えれば、申請手続きのサポートを受けられます。
よくある失敗と回避策
経費精算の電子化で中小企業がつまずきやすいポイントを3つ紹介します。
・失敗1: 全社一斉導入で現場が混乱する
いきなり「来月から紙の精算書は受け付けません」と通知すると、ITに不慣れな従業員から不満が出ます。まず1部署で試し、操作に慣れた従業員が他部署をサポートする「社内アンバサダー方式」が有効です。
・失敗2: 承認フローが複雑すぎて逆に手間が増える
紙の時代の承認ルートをそのままシステムに再現すると、承認者が5人も6人も並ぶケースがあります。電子化を機に、承認ステップを2〜3段階に簡素化しましょう。金額に応じた承認ルート(1万円未満は直属上長のみ、1万円以上は部長承認を追加)を設定すると、スピードと統制のバランスが取れます。
・失敗3: 電子帳簿保存法の要件を見落とす
経費精算システムを導入しても、電子帳簿保存法が求める「タイムスタンプの付与」や「検索要件」の設定を忘れると法令違反になります。ツール選定時に「電子帳簿保存法対応」を明記しているサービスを選び、導入時に設定が有効になっているかを必ず確認してください。

本記事のまとめ
経費精算の電子化は、中小企業が取り組みやすいDXの第一歩です。
・経費精算の電子化とは、領収書の撮影から承認・仕訳入力までをクラウドで完結させること
・従業員30名の企業で年間150〜200時間、金額にして30〜40万円の削減効果が見込める
・楽楽精算・マネーフォワード・freee・ジョブカンの4ツールから、自社の会計ソフトや業務環境に合うものを選ぶ
・「現状把握→無料トライアル→段階的展開」の3ステップで、リスクを抑えて導入できる
・IT導入補助金を活用すれば、導入費用の1/2〜3/4が補助される可能性がある
紙の領収書の整理に毎月何時間も費やしている状況は、システムを入れるだけで解消できます。まずは無料トライアルで、自社の領収書がどの程度正確に読み取られるかを試してみてください。
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