「稟議書を回覧に出したら、担当者が外出していて1週間止まった」「購買申請のメールが埋もれて、承認が遅れて取引先に迷惑をかけた」——こうした経験をお持ちの経営者や総務担当者は少なくないはずです。
紙の回覧やメールでの承認依頼は、申請者も承認者も手間がかかります。どこで止まっているか確認するだけで時間を取られることもあります。
この記事では、Microsoft Power Automateの「承認フロー」機能を活用して、稟議・購買申請・休暇申請などの社内承認プロセスを電子化する方法を、従業員10〜100名の中小企業向けにわかりやすく解説します。設定の手順から費用、よくある失敗まで一通り説明しますので、最後までお読みください。

Power Automateの承認フローとは?(経営者にわかる言葉で)
Power Automate(パワーオートメート)とは、Microsoftが提供する業務自動化ツールです。「〇〇が起きたら〇〇する」というルールをブラウザ上で設定するだけで、複数のアプリを連携させられます。
その中でも「承認フロー」は、申請→通知→承認→完了の一連の流れを自動化する機能です。仕組みはシンプルで、次のように動作します。
・申請者がフォームや申請書を送信する: Microsoft Forms、SharePoint、Teamsなどから申請
・Power Automateが承認者に通知する: TeamsまたはメールでURLつきの通知が届く
・承認者がスマホやPCで承認または差し戻す: 場所を問わず数タップで完了
・結果が申請者に自動で通知される: 承認ならOK、差し戻しならコメントつきで返送
紙の回覧やメール添付のやりとりと異なり、「今どこで止まっているか」がリアルタイムでわかります。承認者が外出中でも、スマホから承認できるため、承認待ちで業務が止まる時間が大幅に短くなります。
承認フロー電子化で得られるメリット(数字で示すROI)
従業員35名・管理部門2名の卸売業B社での導入事例を参考に、削減効果の目安を示します。
| 業務 | 電子化前 | 電子化後 | 月間削減時間 |
|---|---|---|---|
| 稟議書の印刷・回覧・保管 | 月8時間(管理部門) | 月1時間(確認のみ) | 7時間 |
| 承認状況の問い合わせ・追跡 | 月5時間(申請者・管理部門) | ほぼ0(自動通知) | 5時間 |
| 承認結果の転記・ファイリング | 月4時間 | 月0.5時間(確認のみ) | 3.5時間 |
| 合計 | 月17時間 | 月1.5時間 | 月15.5時間削減 |
時給2,500円で換算すると、月約3.9万円・年間46万円相当のコスト削減です。承認が遅れることによる機会損失(発注遅延・取引先への信頼低下)まで含めると、実際の効果はさらに大きくなります。
また、承認記録がデータで残るため、内部監査や経費管理がしやすくなる点も、経営者にとって見逃せないメリットです。
具体的な設定手順(ステップバイステップ)
1. Microsoft 365の準備と承認に使うツールを決める
Power Automateの承認フローを利用するには、Microsoft 365のプランが必要です。Business Basicプラン(¥899/ユーザー/月・税抜)以上で利用できます。
次に、申請をどのツールで受け付けるか決めます。よく使われる組み合わせは次のとおりです。
・Microsoft Forms + Power Automate: フォームの入力内容をトリガーに承認フローを起動。費用追加なし
・SharePoint + Power Automate: 申請書をSharePointに保存し、フロー起動。ファイル保管も同時にできる
・Teams + Power Automate: Teamsのチャネルから申請し、Teamsアプリで承認。モバイル対応が優れている
はじめての場合は「Microsoft Forms + Power Automate」の組み合わせが最もシンプルで設定も30分程度です。
2. Power Automateで承認フローを作成する
ブラウザでPower Automateのサイトにアクセスし、「テンプレート」から「承認」で検索します。「フォームの送信時に承認を開始する」などのテンプレートを選ぶと、主要な設定項目があらかじめ入力されています。
設定する主な項目は4つです。
・トリガー: 何をきっかけにフローを起動するか(例:フォームが送信されたとき)
・承認者のメールアドレス: 誰に承認依頼を送るか(複数人・連続承認も設定可能)
・通知メッセージ: 承認依頼に含める内容(申請者名・申請内容・金額など)
・結果の通知先: 承認・差し戻し後に結果を誰に送るか
設定後は「保存」ボタンを押すだけでフローが有効になります。
3. テスト申請で動作を確認してから本番稼働させる
本番稼働前に、管理者アカウントでテスト申請を必ず行います。確認すべきポイントは次のとおりです。
・承認依頼のメールまたはTeams通知が正しく届くか
・承認ボタンを押したあと申請者への通知が届くか
・差し戻し時にコメントが申請者に伝わるか
・承認記録がSharePointやExcelに正しく保存されるか(設定した場合)
問題がなければ、現場担当者向けの簡単な操作説明(A4一枚程度)を用意して周知します。慣れるまで1〜2週間のサポート期間を設けると、現場への定着がスムーズです。
かかるコストと使える補助金
承認フロー導入のコスト構成は次のとおりです(2026年5月時点)。
| 費用項目 | 月額(税抜) | 従業員30名の場合 |
|---|---|---|
| Microsoft 365 Business Basic | ¥899/ユーザー | ¥26,970/月 |
| Power Automate(M365に含む) | 追加費用なし | — |
| 初期設定(外部委託の場合) | — | 3〜8万円(一括) |
Microsoft 365をすでに導入している企業であれば、Power Automateの承認フローは追加費用なしで始められます。設定を自社でできれば、実質コストゼロで月15時間以上の削減が可能です。
初期設定を外部IT業者に依頼する場合の費用は3〜8万円が相場です。IT導入補助金2026(通常枠)を利用すると、対象となるMicrosoft 365の年間費用の最大50%が補助される場合があります。公募スケジュールや詳細はIT導入補助金の公式サイト(独立行政法人中小企業基盤整備機構)で確認してください。
よくある失敗と回避策
Power Automateの承認フロー導入でよくある失敗を3つ紹介します。
失敗1:承認者が通知に気づかない
Power Automateからの通知がメール受信箱に埋もれてしまうケースです。対策として、承認依頼の通知先をTeamsに設定すると見落としが減ります。Teamsを使っていない場合は、件名に「【要承認】」を付けるなど目立つ工夫をしましょう。
失敗2:承認者が一人しかいない設計にしてしまう
承認者が外出・休暇中に業務が止まってしまいます。Power Automateでは「代理承認者(バックアップ)」を設定できます。主承認者が24時間以内に承認しない場合に代理承認者に通知するよう設定しておくと、承認遅延が起きにくくなります。
失敗3:承認記録の保存先を決めていない
承認済み・差し戻し済みの記録をフローの中で自動保存する設定を忘れると、後から経緯を確認できなくなります。SharePointのリストまたはExcelシートに自動記録する設定を最初から組み込んでおきましょう。
本記事のまとめ
Power Automateの承認フローを活用すると、紙やメールで行っていた稟議・購買申請・休暇申請の承認プロセスを電子化できます。従業員30〜35名規模の企業では、月12〜15時間の業務削減が見込めます。
・Microsoft 365をすでに導入している企業なら追加費用ゼロで始められる
・設定はテンプレートを使えば30〜60分程度で完了する
・承認者が外出中でもスマホから承認でき、業務が止まらない
・承認記録が自動でデータ化されるため内部管理が楽になる
まずはひとつの申請(例:経費精算)から試験導入し、効果を確認しながら対象を広げていくのが現実的な進め方です。IT導入補助金を活用すれば、Microsoft 365の年間費用の一部を補助してもらえる可能性もあります。
自社のどの申請フローから電子化すればよいか迷っている場合は、一番頻度が高く・一番時間がかかっている申請から手をつけるのが定石です。
社内の承認フロー、まだ紙やメールで回していませんか?
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