「うちもDXをやらなきゃ」と思い立っても、最初にぶつかるのが「誰にやらせるか」という問題です。IT部門がない中小企業では、社長自身が兼任しているケースも珍しくありません。
この記事では、従業員10〜100名規模の中小企業がDX推進担当者をどう選び、どう育てればよいかを具体的に解説します。必要なスキルセット、社内での選定基準、育成にかかるコストと活用できる補助金まで、ステップバイステップで紹介します。

DX推進担当者とは?中小企業に必要な理由
DX推進担当者とは、社内のデジタル化や業務改善を主導する役割を担う人材です。大企業であれば「DX推進室」のような専門部署を設けますが、従業員30名前後の会社ではそこまでの余裕はありません。
だからこそ、兼任でもよいので「この人がDXの旗振り役」と明確に決めることが重要です。担当者が決まっていないと、ツールを導入しても使い方が定着せず、結局もとのやり方に戻ってしまいます。
ある製造業(従業員25名)では、経理担当がDX推進を兼任し、請求書の電子化からスタートしました。月15時間かかっていた請求処理が月3時間に短縮され、その成功体験が社内全体のDX意欲を高めるきっかけになっています。
DX推進担当者に求められるスキル
「ITに詳しい人」を担当者にすればよいと思われがちですが、実はそうとも限りません。中小企業のDX推進担当者に必要なのは、次の3つの力です。
1. 業務を理解する力
現場の業務フローを把握し、「どこに無駄があるか」「どの作業が人手に頼りすぎているか」を見抜ける力です。ITスキルよりも、日々の業務を深く理解していることのほうが重要です。
2. 周囲を巻き込む力
新しいツールやルールに対して「面倒くさい」「今のままでいい」と抵抗する社員は必ずいます。担当者には、導入の目的やメリットを社内にわかりやすく伝え、協力を得る力が求められます。
3. ITツールを試す好奇心
プログラミングの知識は不要です。「Google スプレッドシートで管理表を作れる」「新しいアプリを自分で試せる」程度のITリテラシーがあれば十分です。大切なのは、新しいものに抵抗なく触れられる姿勢です。
| スキル | 重要度 | 補足 |
|---|---|---|
| 業務フローの理解 | 最重要 | 現場経験3年以上が目安 |
| 社内コミュニケーション力 | 高い | 部署を横断して動ける人 |
| ITツールへの好奇心 | 高い | プログラミングは不要 |
| プログラミング | 不要 | 外部ベンダーに任せる領域 |
担当者の選び方 — 3つの選定基準
1. 部署横断で動ける立場にある人
DXは特定の部署だけでは完結しません。営業・経理・総務など複数の部署と日常的にやり取りしている人が適任です。総務や経営企画のポジションにいる社員が選ばれるケースが多いです。
2. 経営者と直接会話できる距離感
DX推進では予算の確保やルール変更が必要になります。経営者に直接相談できる関係性がないと、話が進みません。中間管理職や社長の右腕的なポジションの人が向いています。
3. 現場から信頼されている人
どれだけよいツールを導入しても、現場が使ってくれなければ意味がありません。「あの人が言うならやってみよう」と思ってもらえる信頼関係が、DX定着の鍵を握ります。
担当者の育成ステップ
DX推進担当者は、最初から完璧なスキルを持っている必要はありません。以下の3ステップで段階的に育てていくのが現実的です。
1. 基礎知識のインプット(1〜2か月)
まずはDXの基本的な考え方と、自社の業界で使われているツールを学びます。経済産業省が公開している「デジタルガバナンス・コード」(旧DX推進ガイドライン)は無料で参照できます。
民間のオンライン研修を活用すれば、1人あたり月額1,500〜5,000円程度(税込)で体系的に学べます。
2. 小さなプロジェクトで実践(2〜3か月)
いきなり全社的なシステム刷新を目指すのではなく、1つの部署・1つの業務に絞って改善を実行します。
たとえば「経理部門の請求書処理を電子化する」「営業部の日報をクラウド化する」など、成果が見えやすいテーマを選びます。
3. 成果の共有と次のテーマへ(3か月目以降)
小さな成功事例を全社に共有し、「DXで楽になった」という実感を広げます。この段階で社内の協力者が自然と増えていきます。
次のテーマは、最初のプロジェクトで見えてきた課題や、他部署からの「うちもやりたい」という声をもとに決めます。
なお、DX推進の次のステップとしてAIツールの業務活用を検討される場合は、姉妹サイトAIマスターズ.TOKYOで中小企業向けのAI導入事例を詳しく紹介しています。
| ステップ | 期間 | やること | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 基礎インプット | 1〜2か月 | オンライン研修・ガイドライン学習 | 月1,500〜5,000円/人 |
| 小さな実践 | 2〜3か月 | 1部署×1業務の改善プロジェクト | ツール費 月500〜3,000円/人 |
| 成果共有・横展開 | 3か月目〜 | 全社共有・次テーマ選定 | 追加費用なし |
※費用は執筆時点(2026年3月)の目安です。
かかるコストと使える補助金
【コスト】育成にかかる費用の目安
DX推進担当者の育成にかかる外部研修費は、年間で5万〜20万円程度が相場です。オンライン講座を中心にすれば、費用を抑えつつ業務と両立できます。
ツール導入費用は別途必要ですが、最初の小さなプロジェクトであれば無料プランや月額数千円のサービスで十分対応できます。
【補助金】活用できる制度
・IT導入補助金(2026年度): ITツールの導入費用を最大450万円まで補助。DX推進に関連するクラウドサービスやソフトウェアが対象です。研修費は直接の対象外ですが、ツール導入とセットで申請可能な場合があります。
・人材開発支援助成金(厚生労働省): 社員のDX関連研修にかかる費用の一部を助成。中小企業は経費の最大75%が助成される場合があります。
・DXリスキリング助成金(東京都産業労働局): 都内中小企業の従業員向けDX研修費用を助成する制度です。
※補助金は年度や公募回によって条件が変わります。申請前に必ず最新の公募要領を確認してください。
よくある失敗と回避策
失敗1: ITに詳しいだけの人を選んでしまう
システムエンジニア出身の社員を担当者にしたものの、現場の業務フローを理解しておらず、使いにくいツールを導入してしまうケースがあります。
回避策は、IT知識よりも業務理解と社内調整力を重視して選ぶことです。技術的な判断は外部のITベンダーやコンサルタントに相談できます。
失敗2: 担当者に丸投げしてしまう
「DXは任せた」と経営者がノータッチになると、担当者は予算も権限もないまま孤立します。
回避策は、月1回でも経営者と担当者が進捗を共有する場を設けることです。経営者の後ろ盾があるかないかで、社内の協力度は大きく変わります。
失敗3: 最初から大きなプロジェクトに挑む
基幹システムの入れ替えなど大規模なテーマから始めると、費用も期間も膨らみ、途中で頓挫するリスクが高まります。
回避策は、まず「1部署×1業務」の小さな改善から始めることです。成功体験を積み重ねてから、段階的にスケールを広げていきます。
本記事のまとめ
中小企業のDX推進で最も大切なのは、「誰がやるか」を明確にすることです。
ITスキルよりも業務理解力・調整力・好奇心を重視して担当者を選び、小さなプロジェクトから育てていく。
経営者が伴走する姿勢を見せることで、担当者も社員も安心してDXに取り組めるようになります。
担当者選びと育成は、DXの成功を左右する最初の一歩です。まずは自社の中で「この人なら」と思える候補をリストアップするところから始めてみてください。
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