「地震が来たら、会社の業務はどうやって続ける?」——そう聞かれて、すぐに答えられる経営者は多くありません。
BCP(事業継続計画)という言葉は聞いたことがあっても、「大企業が作るもの」「うちには関係ない」と感じていませんか。実際、中小企業庁の調査(2023年)でBCPを策定済みの中小企業は全体の約18%です。
しかし、災害やサイバー攻撃で業務が止まったとき、復旧に最も時間がかかるのは「何を優先すべきかが決まっていない会社」です。計画があるだけで、復旧スピードは大きく変わります。
この記事では、従業員10〜100名規模の中小企業がBCPを策定するための5つの手順と費用の目安を解説します。

BCP(事業継続計画)とは?
BCP(Business Continuity Plan)とは、災害・事故・サイバー攻撃などで事業が中断したとき、「何を・どの順番で・誰が復旧するか」をあらかじめ決めておく計画書です。
分厚い文書を作る必要はありません。押さえるべきポイントは3つだけです。
・優先業務の特定: 止まると売上や信用に直結する業務はどれか
・復旧手順の明文化: 誰が何をすれば業務を再開できるか
・連絡体制の整備: 従業員・取引先・顧客にどう連絡するか
BCPを持っている中小企業は全体の2割以下です。つまり、策定しているだけで取引先からの信頼度が上がり、入札や新規取引の場面で競合との差別化になります。
BCP策定のメリット(数字で示すROI)
「BCPを作っても、普段は使わないのでは?」と思うかもしれません。しかし、いざというときの差は歴然です。
| 項目 | BCP未策定 | BCP策定済み |
|---|---|---|
| 復旧までの期間 | 平均30〜60日 | 平均3〜7日 |
| 売上損失 | 月商の50〜100% | 月商の10〜20% |
| 取引先の信頼 | 契約見直し・取引停止のリスク | 信頼維持・新規取引の優位性 |
| 従業員の行動 | 指示系統が不明で全員が判断に迷う | 役割が明確で迅速に対応 |
年商1億円の会社が1カ月業務停止すると、売上損失だけで800万円以上。BCP策定にかかる費用は自社対応なら0〜10万円、コンサル支援でも20〜50万円です。投資対効果は十分にあります。

BCP策定の具体的な手順|5ステップ
1. 優先業務を洗い出す(所要時間:半日)
すべての業務を「止まったら何日で深刻な影響が出るか」で分類します。受注・出荷・請求・給与計算など、売上と資金繰りに直結する業務を3〜5つ選んでください。
「すべての業務が大事」と思いがちですが、全部を同時に復旧するのは不可能です。「72時間以内に再開しないと取引先を失う業務」を最優先として明確にすることが出発点です。
2. 自社にとってのリスクを想定する(所要時間:2〜3時間)
| リスク | 発生頻度 | 業務への影響 |
|---|---|---|
| 地震・台風 | 年数回 | 停電・建物損壊・通勤不能 |
| サイバー攻撃 | 増加傾向 | データ消失・システム停止 |
| 感染症 | 数年に1回 | 従業員の大量欠勤 |
| 設備故障 | 年数回 | 基幹システム・サーバーの停止 |
全リスクに対応しようとすると終わりません。自社に影響が大きい上位2〜3つに絞るのがコツです。
3. 復旧手順と担当者を決める(所要時間:1〜2日)
優先業務ごとに「誰が・何を・どの順番で」復旧するかを決めて文書化します。担当者が不在の場合の代行者も必ず指定してください。
例:受注業務の復旧手順
・社長が全従業員にSMS一斉連絡(安否確認)
・経理担当Aが自宅PCからクラウド会計にログイン
・営業担当Bが主要取引先5社に電話で状況報告
・IT担当Cがサーバーの復旧状況を確認し共有
ポイントは「固有名詞と具体的な行動」で書くことです。「関係者に連絡する」ではなく「社長が従業員30名にSMSで安否確認を送る」のように、誰が読んでもそのまま動けるレベルにします。
4. 連絡網と必要な情報をまとめる(所要時間:半日)
緊急連絡先リスト(従業員・取引先・保険会社・ITベンダー)を作成し、クラウドと紙の両方に保管します。停電やネットワーク障害でクラウドにアクセスできない場合に備えて、紙の控えは社長と副担当の2名が持ってください。
5. 年1回の訓練で実効性を確認する(所要時間:2〜3時間)
BCPは「作って終わり」が最大の落とし穴です。年1回、30分の机上演習(「震度6の地震が発生した」というシナリオを読み上げ、各自の対応を確認する)を実施するだけで実効性が大幅に上がります。
訓練後に「連絡先が古かった」「手順が曖昧だった」という点を修正すれば、BCPは毎年少しずつ精度が上がっていきます。
かかるコストと使える補助金
策定費用の目安
| 方法 | 費用 | 内容 |
|---|---|---|
| 自社で策定 | 0〜10万円 | 中小企業庁の無料テンプレートを活用して自社で作成 |
| コンサル支援 | 20〜50万円 | 専門家が訪問してヒアリング・策定を支援 |
| 商工会議所の支援 | 無料〜数万円 | 地域の商工会議所が提供するBCP策定セミナー・個別相談 |
使える補助金(2026年4月時点)
・IT導入補助金: BCPに関連するクラウドサービス(バックアップ、リモートアクセス等)の導入費用を補助。補助率1/2〜2/3、上限額は年度・公募回により異なるため公式サイトで最新情報を確認
・各都道府県のBCP策定支援事業: コンサルティング費用の一部を助成するケースあり。例として東京都は中小企業向けBCP策定支援で専門家派遣を無料実施
・小規模事業者持続化補助金: BCP関連のIT導入・設備投資に活用できるケースあり。上限50万円
サイバー攻撃への備えについては、姉妹サイトセキュリティマスターズ.TOKYOで中小企業向けの対策を詳しく解説しています。
よくある失敗と回避策
失敗1: 分厚いBCP文書を作って誰も読まない
回避策:A4用紙2〜3枚の「要約版」を全員に配布する。詳細版は管理者が保管し、要約版には「最初の1時間にやること」だけを記載するのが効果的です。
失敗2: 連絡先リストが古くて機能しない
回避策:半年に1回、連絡先リストを更新する。担当者の異動・退職を反映するだけでなく、電話番号の変更も見落としがちです。
失敗3: クラウドに全情報を集約して安心してしまう
回避策:停電やネットワーク障害でクラウドにアクセスできない場面を想定し、紙の控えも用意する。「クラウドが使えない状況こそBCPが必要な場面」と考えてください。

まとめ
BCPの策定は、特別な専門知識や高額な費用がなくても始められます。
・ステップ1: 優先業務を3〜5つ洗い出す
・ステップ2: 自社のリスクを上位2〜3つに絞る
・ステップ3: 復旧手順と担当者(代行者含む)を明文化する
・ステップ4: 緊急連絡網をクラウドと紙の両方で整備する
・ステップ5: 年1回の机上演習で実効性を確認する
自社で策定すれば費用はほぼゼロ。中小企業庁のテンプレートを使えば、半日〜2日で骨格は完成します。まずはステップ1の「優先業務の洗い出し」から始めてみてください。
「BCPの作り方、もう少し詳しく知りたい」
災害やサイバー攻撃は「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題です。
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